パリ事件簿 2018
 
今回のフランスは短期滞在でしたが、
何も起こらず無傷で帰国することは
やっぱりありませんでした。
シャルルドゴール空港に到着するやいなや
目を疑いました。スーツケース。
割れてるじゃないですか。「また」ですよ。
2018年7月10日火曜日
実は2年前、新品でフランスに来た時も割れました。
しかし気が付いたのが遅くて
航空会社もスーツケースの会社も責任拒否。
泣く泣く3000円手出しの旅行保険で
修理してもらったという過去があります。
これはもう、すーぐ言わなきゃ、
今着いたんですけどミテミテ割れてますよね!って言わなきゃ。
荷物受け取りの場に航空会社の受付はありません。
それで、総合案内らしきカウンターに駆け込みました。
「今日本から着いたのですが、ここに大きなヒビが....」
「あら...確かに。どこの飛行機?」
マダムはとても感じのよいひとで、
スーツケースの持ち手で輪っかになっている
飛行機の便名の紙をサッと取り
あちこちに電話をかけてくれています。
ため息を漏らしながら明らかにタライ回されています。
それでも、30分後には電話を切り、
ホッと一息つかれたので
「....誰か来るのですか?」とおそるおそる訊いてみました。
自分の予想としては
航空会社の担当が来る。
もしくは破損証明書のようなものが出る。
マダムの返事は意外なものでした。
 
もうすぐバッグ屋さんが新しいスーツケース持って来るわ!
あなた、ここで荷物を詰め替えてかまわないからね!」
 
もうすぐ
新しいスーツケースが
来る
 
いやいやいや...チョット待った!
大仕事をひとつ成し遂げ、
充実感満々のマダムは
わたしを喜ばせようと囁くのでした。
「きっといいスーツケースが来るわよ!sムソナイトみたいな!」
 
そうじゃなくて。新しいのとかいらないの。
わたしはコレが好きなの。好きで選んだコレがいいの。
即交換とか聞いてないし。初耳やし。
仏の辞書に「思い入れ」という文字はないのか。
 
思いがけぬマイスーツケースとの別れに
八の字眉で落ち込むわたしに気付いたマダムは
「あなた!悲しいの!!?なんで!?新品がくるのに!?」
と、こちらもまた合点のいかぬ訝しげな表情に。
「まさかこうなるとは...。保険の為の証明書がほしかった」と
拙いフランス語で言おうとするも
何より自分が一番混乱しているもので
いつもにましてシドロモドロ。
マダムの眉間のシワは深まるばかり
わたしの焦りはつのるばかりでラチがあきません。
 
割れたスーツケースをはさんで
マダムとわたしが実りの無い攻防を続けているところに
来た!
新しいスーツケース!来たけど
こ、これは....
 
「薄給の夏の疲れたサラリーマンのよれたスーツのねずみ色」の、
「店頭に最後まで残っていてしかもストックもあるスーツケース」
と言えばよいでしょうか。
触ってみっぺ。
ベッコベコだべ。
鍵ついてっけど、このファスナー、
カッターで切れるべ。簡単だべ。
 
「...すみません...替えません」と思わず口から出てしまいました。
努力を無にされたマダムはご機嫌斜め。
わたしの手から
彼女がD韓航空から「勝ち取った」書類を
無言で回収します。
 
しかしこの暗雲立ちこめる事態に
困り顔ながらも
2つのスーツケースの格差に同情を隠せなかった
バッグ屋のムッシューが
一筋の光を投げかけます!
 
「よかったら店まで来る?他のをみせようか?」
 
優しい顔に戻ったマダムにお詫びを言い
到着から約1時間後、やっと、
荷物の受け取り場を後にしたわたし。
トボトボと、本当にトボトボとムッシューに付いて行きます。
空港内にそんな店あったっけ?免税店?
頭がハテナで一杯になるかならないうちに
着きました。
 
......。
 
店じゃない、よね。良く言っても更衣室か事務所か。
中にもいれてくれない。
簡素な防火アルミみたいなドアの前で待たされる事数分。
ムッシュー出て来た。
「これはどう?」
 
 
 
色違いかい。おい。
 
 
 
 
30分後
新しい、かろうじて「青い」新しい伴侶を引いて
わたしはオペラ座に向かう空港バスを待っていました。
 
ヒビが入ってもなお格好だけはよかったあのコを
ポツンと異国の無味乾燥な部屋に残していくのは辛かった。
本当に悲しかったです。
この「青いサラリーマン」が
引っぱり始めてみると
驚くほど軽い事に一瞬喜んだ自分が後ろめたかった。
若い後妻とちょっとでも楽しく過ごすと
前妻を思い出して陥る申し訳ない気持ち。
それはひょっとしたら
こんな感じ....。
 
パリ在住の日本人の友人は、
日本に一週間帰国した際にスーツケースが割れたそうです。
日本ではやはり基本は「修理」らしく、
ただ彼女の日本滞在中に修理するには時間が足りない、という事で
修理費用3000円を受け取るか、もしくは
パリに戻って交換するかの二択だったとか。
 
いずれにしても
どうやらフランス人には
スーツケースに関して「修理」という考えは
一切無いようです。
物を大事にする国というイメージがあったのですが、意外。
シャルルドゴール空港で
破損に気付いたみなさん、
こころして届け出てくださいね。
 
 
 
「私だってこんな部屋に来たくなかったです」と青いサラリーマンも言っています。