列車内フルーツバスケット
 
今年も、布の仕入れの旅が近づいています。
予約をするのは、飛行機、ホテル、そしてTGV。
毎年、パリから南フランス(アビニョン)まで、このTGV、いわゆる新幹線のような高速列車に乗ります。なので、かれこれ30回ぐらい乗ったことになりますが、
全席予約にもかかわらず、二回に一回は誰かがわたしの席に座っているのです。
最初のうちは戸惑いましたが、このごろ、だんだん、わかってきました。
彼らがそういうことはあまり気にしないということが。

去年のことでした。
探し当てた自分の席には、シアワセそうな一家族。しかもわたしの席には
クーファンの中のちっちゃい赤ちゃんが。
わたしの席を赤ちゃんが占領していることに気が付いたパパでしたが、
なんとなく「いいだろ?」的アイコンタクトがあり、そんなこんなで彼らの習性に慣れて来たわたしも、
   OK」とこころよく 彼らと背中合わせの空席に座りました。ところが
1分も経たぬうち、 その席の方が来られてしまい、
早くもわたしは流浪の民に。「...ということは、あの四人家族の、本当のあと1つの席に
座れば問題無い」と思い、パパに「あなたの本当の席はどこ?そこにすわるから。」と
たずねると「3席しか予約してないんだ。」 はぁ!?
さすがにわたしの当惑の色を読んだパパは、わたしを座らせて、自分は通路に立つ道を選択します。
当然といえば当然なのですが、アビニョンまで3時間、
まるで家族の和を乱したかのようなこの気まずい空気に耐えられるのか、オレ。
その時でした。通路をはさんだ席のムッシューAがパパに声をかけたのは。
  「こっちに座りませんか」と、
自分の席を彼にゆずり、自分はまだ誰もいない隣の席へ座りなおしたのでした。
奪い取った「家族シート」でいたたまれなかったわたしは、そこで
 と、パパと席をかわり、本日3つ目の席へ。
 でも、しばらくすると  と、
今度はムッシューAの仮の席のホントの予約者が!
「ということはムッシューAがわたしの席にもどって、え〜っとわたしは〜」
と考えながらわたしが既に腰を浮かせていると、
ムッシューAは「君はいいから」とさりげなくわたしをたしなめ、
この複雑なフルーツバスケットの空気を何となく読んだその新しい参加者は、
「あっ、そこが空いてるの?じゃ、そこでいいよ。」と、
ムッシューAの正面の空席に、何のためらいも無く座りました。整理してみましょう。
 
誰ひとり自分の席に座っていません(除おじいちゃん)。
「じゃ、今度、この若者の席にホントの予約者が来たら...何でみんなそんな平気なん。」と案じつつも、
くたびれたのか、いつのまにかうつらうつら....。
ふっ  と目がさめると、目の前が空席です。
といってもこうなってくると、おじいちゃんの席も定かではありません。
自分の「本当の席」へ戻ったのかもしれません。
トイレにしては長いかな〜と思っていたそのときでした。
「すみません、ここ、誰かいます?」
いるんだかいないんだかじいちゃんに聞いとくれよ。
「誰かいましたが、また戻ってくるかどうかは知りません。」
「そうですか、メルシー」と立ち去る彼女。
わたしはヒトとして、この席を守ってあげるべきなのか!?
「誰かいましたよ」と断ることさえ「不寛容」な気がしてきます。
フランス人にきいてくれーわたしにきくなーわたしの鼓膜フランス語でふるえるなー
そんなわたしの願いも虚しく数分後、
「すみませんマダム、ここ空いてます?」
「誰かいましたけど....戻るかどうか。」
ねぇ!みんな!今からせーのっでほんとの自分の席にすわってみよか!
おかしいって。予約せんと乗れんはずって。

その後わたしは寝たふりをきめこんだので、
果たして何人の流浪の民がこの空席に興味を示したのかは定かではありません。
でも、気が付いたときには、おじいちゃんが(間違いなく同じおじいちゃんが)
何事もなかったように座っておられました。
「報われるってこういうこと?」とココロの中でつぶやいて本当の睡魔におそわれた頃には
もう風景は赤い屋根に青い空。
ちっちゃいことにはこだわらないプロバンスのラテンの空気になっていました。
2009年5月9日土曜日